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ボーダレスアカデミー ファイナルピッチ-出場者NO.5 山地竜馬
アカデミーファイナルピッチ 全文掲載
牛飼いの山地竜馬と申します。
廃用牛のリハビリ放牧についてお話します。よろしくお願いします。
動画に出ていた「こゆき」です。近頃は歳の所為か、牧場を歩くことも大変になっています。繁殖はできなくなってもうすぐ6年になります。「早く売ればいいのに」いろんな人に何度も言われました。「こゆき」は経済動物だからです。農家は繁殖ができなくなった母牛を売るのは当然のことです。「こゆき」を最後まで牧場で育てたい、ずっとそう思っていました。
以前に「こゆき」と同じように繁殖できなくなった母牛を思い悩んだ挙句、市場で売ることがありました。最後まで牧場で育ててあげたかった。牛飼いとして繁殖できなくなった母牛の最後を自分で決めることの責任を、痛感した出来事でした。
一般的に繁殖のできなくなった母牛は廃用となり、ミンチ肉になります。日本では母牛の牛肉は子牛よりも安く評価されます。一方で、フランスでは子牛よりも母牛の牛肉が高いそうです。
そもそもなぜ繁殖ができなくなるのか。もちろん、年齢の問題もあります。ただほとんどが黒毛和牛の飼育方法が原因にあります。黒毛和牛は放牧されることはなくて、みずみずしい草を食べることはありません。牛舎で飼育され乾いた草を食べている。もちろん農家は母牛の健康に気をつけて育ててはいますが、どうしても運動不足と栄養過多の状態になります。その結果、繁殖に障害が生じてしまいます。
では不妊となった母牛は本当に繁殖できないのでしょうか?繁殖できない母牛を牛舎という限られた場所で、購入した飼料で育てます。私と同じように、もう少し飼いたいと思っていても、やむおえなく母牛を廃用にしなくてはならないことが多々あります。でも実は廃用となる母牛の多くは繁殖の機能がまだ残っています。
少し余談になりますが、写真は競走馬の温泉によるリハビリです。黒毛和牛は自然放牧と自然交配でリハビリします。牧場で自由に草を食べて時には土も食べます。宮城県のある自生所では約80%が自然交配で再繁殖します。牛舎で繁殖できなくなった母牛は放牧で繁殖できるようになります。
リハビリ放牧のビジネスモデルです。
①荒廃農地を小ちゃくして廃用牛を購入し、自然放牧します。
②種オス牛での自然交配を行います。
③繁殖できなかった母牛は再び子牛を生産します。
④子牛を10ヶ月育てて市場で販売します。
これが廃用牛のリハビリ放牧です。リハビリ放牧は離島や中山間地域の切り札になります。荒廃農地の再生や牛以外の廃用家畜への応用が可能です。リハビリ放牧された耕作放棄地は農地に変わり、農作物を作ることで牛との兼業ができます。リハビリ放牧で生まれた子牛の販売価格は人工授精の子牛よりも約20%安くなります。一方でリハビリ放牧で育てられた子牛の販売利益は人工授精の子牛よりも約60%アップします。
次に夫婦2人でのリハビリ放牧の経営モデルです。
荒廃農地30ヘクタールに廃用母牛30頭をリハビリ放牧することで、600万円の所得を得ることができます。加えて2名程度の雇用も可能です。畜産の盛んな九州には30万頭の繁殖母牛が居ます。そのうち、1万頭を廃用母牛と推定しています。また九州だけでも5万ヘクタールの荒廃農地があります。廃用母牛を一頭、放牧をするだけで荒廃農地1ヘクタールが美しい里山の風景になります。
ただ、リハビリ放牧にはいくつかの課題があります。最大の課題は荒廃農地の賃借です。リハビリ放牧には広大な土地が必要となるため、地域の協力が不可欠です。また、リハビリ放牧で生産された子牛の販売やリハビリ放牧しても繁殖できない母牛の余生をどうするかなどいくつかの課題が残ります。
私は鹿児島の小さな島、口永良部島で生活するための手段として島の人に母牛を一頭貰い牛飼いを始めました。山を借りて、テントを張って牛と同じ水を飲んで暮らしたこともありました。黒毛和牛を放牧するなんてとんでもない。農協や行政の方と喧嘩して何度か牛飼いをやめたいと思ったこともありました。でもその度にたくさんの方々が協力してくれ、今日ここに私が来ることができました。島を離れた今の私には牛飼いを続けることでしか恩返しすることは出来ません。
私は自然の中で、牛と人が共生する社会を作りたいと考えています。牛の幸せが人の幸せになる、そういう優しさと謙虚さを持った牛飼いであり続けたいと思います。
ご静聴誠にありがとうございました。
山地さんありがとうございました。それでは審査員の方にお話を伺いたいと思います。
まず1人目は、株式会社坂の途中 小野邦彦様、お願いいたします。
お話ありがとうございました。なんというか大変世界観とかなんかおそらく人間性を含めて非常に共感するなあと思って聞いていました。で、あの課題の設定とかすごく良いと思ったんですけど、ちょっと事業のモデルはあんまり僕理解しきれなくて、教えて頂きたいんですけど、この荒廃地を使った自然放牧を自身でされているってことなのか、それをこうモデル化して他の方にやっていって貰うってことなのか、どちらでしょうか?
モデル化して進めていくことは現在考えていなくて、まず私がモデルになるってことが一番最初だと考えています。
承知しました。耕作放棄地を集めるとか探すってところで、お手伝いできることがあるかもしれないので、またお話させてください。
お願いします、ありがとうございます。
続きまして、2人目の審査員 株式会社電通 榊良祐様、お願いいたします。
ありがとうございました。素晴らしいプレゼンだったと思います。まず思ったのが本当に「こゆき」ですか、あの本当にその牛のことを想って、この牛が最後まで幸せに一生を終えるにはどうしたらいいんだろうと考えているという、この山地さんの考え方が素晴らしいと思って。本当に優しい人なんだなと思って。最初に黄色い声援飛んでましたけど、そりゃファンができるなと納得しました。
ちょっと途中でお話あったところで一つ質問なんですけど。日本では母牛が子牛よりも安い値段で販売されるってことだったんですが、ヨーロッパではその逆だと仰っていました、その理由ってどういうことなんでしょうか?
日本の牛肉の価格というものが、そもそも霜降り重視の格付け基準で決められるからです。
なるほど、そういう国での牛の好みの違いというか、まあそういうことが反映しているということ?
そうですね、売り手ももちろんそうですし、買い手の方もやっぱり霜降り牛肉の買われると思うんですね。特に赤みの牛肉は見た目が悪いんです。母牛のお肉ってどうしても赤身肉になるんですけど、見た目が悪いので、スーパーに並べたら選ばれないということもあると思います。
なるほど、ありがとうございます。なんかこの、荒廃地を使って牛を放牧するという新しい働き方を、今その、都会から地方に移って農業をやるとか、そういう働き方をされる方増えていますけど、そういう新しい選択肢の一つになるんじゃないかなという風に感じました。それがさらにね、日本の源流風景というか、牛を放牧するという風景も出来上がってくるというのはなんかこう素敵なストーリーがある仕事だなあと思いました。ありがとうございます。
ありがとうございます。
続きまして、パタゴニア日本支社 辻井隆行様、お願いいたします。
素晴らしいプレゼンありがとうございました。僕は、雇われて洋服屋をやっているだけなので、本当に僕が言うのもあれなんですけども、さっきの小野さんの話とも通じるところで、やっぱり人間って言うのは本当にその、他の命を奪ってでしか生きていけないっていうことを改めて本当に考えさせられる内容だったなと思います。
そういうなかで、やっぱり脳の大きさで生命の尊さが決められるみたいな人間の目線ってのはやっぱりずっと気になっていて、だから先ほどの小野さんのもそうなんですけど、まあ野菜であっても植物であっても、牛であっても、やっぱり命を奪うってことには変わりなくて、そのなかで本当にその、行き過ぎた畜産ていうのの問題点を解決する一つの大きな力になるようなビジネスに本当になっていただきたいっていう風に感じるプレゼンで、陰ながら応援させていただきたいと思います。ありがとうございます。
ありがとうございました。
最後に山地さん、こゆきちゃんの年齢と名前の由来などあれば、お聞かせ頂けますか?
年齢は16歳なんですけど、私が産ませた牛ではなくて、買ってきた牛、一番最初に買ってきた牛です。
愛情たっぷりの山地さんでした。ありがとうございました。
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