アカデミー生インタビュー
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「障がい児の“親”を支えたい」――わが子の障がいについて話せなかった母親が、地域密着型リアルコミュニティの運営でつくりたい社会とは?
障がい児親のリアルコミュニティと「親亡き後問題」を考える勉強会の始動
小島さんは現在、「障がい児の親向けの地域コミュニティ」を運営していると伺っています。このコミュニティを発足したきっかけについて教えてください。
私には重度の知的障がいを伴う自閉症の子どもがいます。わが子は住んでいる地域の学校の特別支援学級では十分な教育と支援が受けられないため、特別支援学校に通うこととなりました。ただ特別支援学校は学区外にあるため、子どもの教育について情報を交わせるようなママ友が住んでいる地域にいなかったんです。
この状態は親の孤独感を強めるのはもちろんですが、たとえば災害時。子どもが地域の名簿に登録されていない可能性があり、避難先で十分な支援が受けられない可能性があります。また地域の医療や福祉の情報もなかなか入ってきません。障がい児の受け入れに積極的でない保育園があるといった情報も、実際にそこを訪ねてはじめて知るといった現状があるくらいです。
このように障がい児の親、家庭は、どんどん傷つき、さらに孤立を深めていきます。そのしわ寄せが、子どもへの虐待といった最悪の事態につながるという話も珍しくありません。だから私は、障がい児親、家庭が傷つく前に情報共有できる場所をつくりたいと思い、まずは自分が住む地域でリアルコミュニティ「iStep(アイステップ)」を立ち上げました。
お話を伺っていると、「地域」で「リアル」につながることを強く意識されているように感じました。
オンラインでもつながることはできます。実際にアイステップでも全国オンラインコミュニティをつくり、月1回の座談会を実施してきました。
しかし、その地域ならではの情報は、そこに住む人だからこそ得られるものです。実際に私は自分が情報を持っているほうだと思っていたのですが、特別支援学校のバス停で子どもを同じ学校に通わせている障がい児の親御さんと話してみると、「○○の床屋ではうちの子もカットができた」「うちの子は○○歯科に通っている」「あそこの保育園は障がい児支援に少し不安があるかも」といった細かく多岐にわたる情報が、それぞれの家庭から出てきたんです。
また今は親が子どもを支えられていますが、誰もが平等に歳をとります。子どもを残してこの世を去る「親亡き後問題」を考えたときに、地域の人はもちろん福祉事業所や、成年後見制度に詳しい士業の方々とつながっておく必要性を強く感じました。そのため地域密着型のリアルコミュニティづくりに力をいれているんです。
「親の支援」と「地域のつながり」 ボーダレスアカデミーで気づけた信念
障がいを持つお子さんの親、家庭が地域から孤立しないための支援に奔走している小島さんですが、アイステップの公式サイトには、お子さんの障がいを受け止めるのにも時間がかかったと記されています。コミュニティをつくらなければと思うまでにも時間がかかったのではないでしょうか。
つい最近まで、子どもが障がいをもっていると周囲に言えずにいました。ただ障がいをもつパパやママと話すなかで、自分がこれまで体験してきたことや気持ちを共有することが、同じ不安や悩みを持つ人の役に立つことを実感したんです。
ちょうど障がい児の親を支援したいと考え始めたころに、あるテレビ局のディレクターさんにこの社会問題について話す機会がありました。
障がい児のいる家庭では、共働きでのフルタイム勤務が難しく、主に母親の多くが安定した仕事に就きにくいという課題を抱えています。就労経験はあっても、そのうちの約73%の母親が子どもの介助や見送りを理由に、離職をしたり再就職を諦めたりした経験があるというデータがあります。実際に私がWEB関連の仕事で起業したのも、子どもをバス停まで送り迎えしなければならず、時間が拘束されるフルタイム勤務が難しかったからです。
また共働きが難しいとなると世帯年収が下がります。全世帯の平均所得金額は約552万円、児童のいる家庭では約746万円ですが、障がい児家庭は約54%が約550万円以下というデータがあります。障がい児の親は、子どもの教育費、資金の負担が重くのしかかるという課題も抱えているんです。
これらの課題は、障がい児親にとってもはや当たり前のことでした。しかしそのディレクターさんはこの現状を聞いて非常に驚いていたんです。世の中の人には知られていない現状を目の当たりにして、もっと世間に発信していかなければという思いを持つようになりました。
働きたくても働けない「親のキャリア」という課題もあるんですね……。確かにそれは発信されなければ気づかない部分だと思います。しかし「発信」と「コミュニティ」では少し性質が違うのかな、とも思うのですが……。
この問題をなんとかしなければと思い立った時点で考えていたのは、コミュニティではありませんでした。コミュニティの必要性は感じていましたが、確信までには至っていない感じでしたね。
それこそはじめの頃は、私がWEB関係の仕事をしていることもあって、バス停で耳にしたような情報を集約した障がい児親向けの地域密着型療育福祉情報サイトの立ち上げを考えていました。くわえて課題の解決には持続性も重要なので、この方法なら広告で収益をあげられるかもしれない、と。
最初はメディア事業を検討していたのですね。今のリアルコミュニティ事業にシフトチェンジするきっかけは何だったのでしょうか?
「ボーダレスアカデミー」に参加して、事業プランを練り上げたことがきっかけです。アドバイザリーの渡辺麗斗さん、海野慧さん、山田拓さんたちから繰り返し受けた「本当に障がい児をもつお母さんたちを救いたいのか」という問いと真剣に向き合うなかで、自分のなかに「障がい児親と地域をつなげて支援する」というゆるぎない信念を見つけることができました。
ボーダレスアカデミーをきっかけに、リアルコミュニティ事業を立ち上げたのですね。そもそもボーダレスアカデミーを知ったきっかけは?
障がい児親の間でしか共有されていない当たり前の課題をなんとかしなければという使命感は強く持っていましたが、自分だけではどう動いていいのか分からず、なにより不安を抱いていました。
そんなときに上条厚子さんが立ち上げられた「ママバラ」(※現在はサービス終了。現在は妊娠期の夫婦・0歳児のパパママに向けて、オンライン両親学級「親のがっこう」を運営中)を偶然見つけて。自分が考えていることに近いものを感じ、さらに深く探っていくと上条さんの ママライフバランス株式会社がボーダレスグループの1社であること。そしてそのグループには「ボーダレスアカデミー」なるスクールがあることを知りました。
実は私は、自分が考えていることが「ソーシャルビジネス」という概念に当てはまることすら知らなかったんです。ただ6期の説明会がちょうど開かれるタイミングだったので、とにかく参加してみようとボーダレスアカデミーの門を叩きました。
ボーダレスアカデミーで「自分のゆるぎない信念を見つけられた」とのことですが、参加してみて印象的だったことがあれば教えてください。
私が参加した6期は、比較的優しい……なんて言われていたのですが、そんなことはないんじゃないかと思うくらい厳しいことも含め、たくさんのアドバイスを頂きました。
最初に持っていった事業プランは、メディア事業を土台に障がい児のお母さんたちにIT系の仕事を斡旋するといった内容だったのですが、アドバイザリーの方々からは「本当にお母さんたちを救いたいの?」というツッコミが噴出して……。それはもう、落ち込みましたね。ただ振り返ってみて、ITの仕事は合う合わないがあるという至極当然のことに気づきました。またそもそも、収益ありきのプランに寄りすぎていたことにハッとさせられたんです。
そこからプランを練り直して、今のリアルコミュニティの形になっていったと。
どうやって事業として成り立たせていくのか。なぜ地域にこだわるのか、全国規模でなくていいのか。ポスト小島はどう育てるのか……。リアルコミュニティの事業プランにも、たくさんの意見をもらいました。このアドバイザリーの皆さんと本気でぶつかった経験が、自分の「障がい児の親を支えたい」という信念、決意を確固たるものにしてくれたと思っているんです。
その証拠に私は、アカデミーを卒業し「JAPAN SOCIAL BUSINESS SUMMIT」に登壇しプランを発表したのち1カ月でアイステップを発足し、リアルコミュニティでの座談会を実施しました。
子どもと自分の未来を考えて行動する人を増やしたい
実際にアイステップを立ち上げてから約8カ月。大変なこともたくさんあったのではないでしょうか?
当事者である障がい児のご両親から運営メンバーを集めるのが本当に大変でした。
皆さん、障がい児親のコミュニティ内では思うことや漠然とした不安を口にするんです。ただ現状を変えるために、自ら行動するとなると一気にハードルがあがるんですよね。私も自分の子どもが障がいを持っていることをすんなりと受け入れられず、周囲に対して引け目を感じて地域とのコミュニケーションを避けていたときもあり、その気持ちがとてもわかる分、今いる3人の運営メンバーに巻き込んでいくのには時間を要しました。
どうやって当事者の方々を巻き込んでいったのでしょうか?
「親亡きあとの勉強会」が大きなきっかけだったと思います。特別支援学校、放課後等デイサービスへのチラシ配りとTwitterでの簡単な告知くらいで宣伝には力を入れなかったにもかかわらず、この勉強会にはオンライン視聴者を含め約50人の参加者が集まりました。やはり親は、自分がいなくなった後の子どものことが気がかりで、そのためには自分が動かなければと思うんです。
なかでも成年後見制度のセミナーを開いたときは、これまでどちらかというと私のサポート的な動きをしてくれていた運営メンバーが、自分から「何かできることはない」と声をかけてくれたんです。私が何か指示をしなくても、参加者の方への連絡や会場づくりも完了していた、なんてこともありました。一緒にコミュニティをつくっていく仲間として、本当に心強いと感じています。
頼れる仲間も増えた、アイステップ。今後の展望についてもお聞かせください。
この事業のソーシャルインパクトは「子どもと自分の未来を考えて行動する人を増やす」ところにあると考えています。
そのためにはまず、コミュニティの参加者を今より増やし、ここが安心できる場所なのだと知ってもらうことが大切です。参加者となるのは当事者はもちろん、福祉施設、士業の方々やこの活動を支援してくださる人も含みます。
今のアイステップの状況は、まだまだ十分に周知ができておらず、さらに収益も出ていないという道半ば。事業を続けられなければ、子どもと自分の未来を考えて行動する人は増やせません。そのため今後は、家計の負担にならない範囲で参加費を設定するところからはじめようと考えています。
また、会費だけでは収益を出すのは非常に難しいため、他の方法も模索しているところです。その1つの軸が「親亡きあとの勉強会」の月額有料化。成年後見制度などの福祉制度、障がいの子を持つ家庭のライフプランとマネープランの考え方、子どもの自立に向けて、進学や就労、悩める親同士共感をもって語り合いつつ情報交換をしていきます。また信頼できる福祉施設の見学会や福祉専門家や士業の紹介などが受けられる場所にもしていく予定です。
そして将来的にはこのコミュニティをもっと大きくして、障がい児とその親が一緒に暮らしていけるグループホームをつくれたらいいなと思っています。親は身体が動く限りはそこで支援者として働きながら、子どもを見守ることができる。子どもも困ったときはグループホームの人たちにすぐに頼ることができる。そういう親も子どもも安心して自立できる場所をつくりたいんです。
その夢の実現を心から応援しています。
ありがとうございます。
実は今年の9月から、アイステップのコミュニティが住んでいる学区の主催サロンの1つに認定されたんですよ。ホームページをつくり活動実績をつくることで行政からの信頼も得られ始めています。
このように少しずつでも前に進めているのは、ボーダレスアカデミーで「絶対に実現してやろう!」という気持ちを強く持つことができたからです。ボーダレスアカデミーは何が何でも助けたい人がいる人にとって、ソーシャルビジネスのノウハウが学べる以上に、自分の信念の明確化という大きな意味、価値が得られる場所だと思います。
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